恋じゃなくなる日


updated 2016-09-17

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相手の気持ちなんかおかましいだと思っている。
ただ、自分が好きで好きでたまらないから。
でも、拒否されることも怖くて。
ずっとずっと言えないこの思いや、このとどまることを知らない熱情は、
いつかは相手に届くのだろうか?



「恋じゃなくなる日」



何度も何度も、隣にいる奴に言ってみようと思った言葉がある。

“俺たちって、どんな関係?”

心にはいつもあっても、それを口に出すことは今の一度もない。
それを告げたら、今の状況が変わるのだろうかと、そうは思ってみても。
もしかしたら、今の関係を壊してしまうんじゃないかと、そう思って告げずにいる現状。
当たり前だが、隣にいる奴の考えなんてわからない。
だからこそ、今の一歩が踏み出せないでいる。
このまま、ずっと隣でいるという、でも曖昧な関係をいつまでも続けている。
声に出して、もしも”好き”って伝えたらどうなるのだろうか?
もしも、それを拒絶されたら?
結局考えはそこへ行き着き、何の変化もない。
でも、もしもこいつの隣に、自分でない誰かがその居場所にきたとしたら、その時はどうするんだろう?
答えはいつまでも出ないまま、時だけ経っていくのだ。



***



転機は案外あっけなくやってくる。
いつも、当然、突拍子もなしにそれは始まるのだ。

「合コン?」

ナルトがなんだそれ、といった感じでそれを言ってのけたキバに対して驚きの答えを返した。
かってのルーキーと言われていたナルト達も、時が経ち気がつけば上忍になっていた。
今日も任務を終えた足で、その昔ながらの仲間達と軽く一杯、ということで行きつけの飲み屋での会話だ。

「まぁ、平たく言えばそんなんだけどよ。女の子たちがおまえ等を呼んでほしいって言うんだよ。
 ご指名だぜ?」
「おまえ等って・・?」

ナルトがふと隣のサスケに眼を向ける。
サスケは興味なさそうに、そっぽむく。

「めんどくせぇ、俺はパス。」
「頼むよ、サスケ。合コンって言ってもさ、単に飲み会なだけだからさ!」

そう言って、キバはサスケに対し拝むようにせびる。

「なぁ、ナルトもなんとか言ってくれよ!」
「なんでサスケもなんだよー。火影に一番近い男、うずまきナルト様だけで充分だってばよ!」

どうせ、サスケを一緒にいけば確実に女の子はそっちの方へ心が向いてしまうだろうと、反論する。
行きたくもない合コンにサスケが行く必要もないだろうと思っての言葉だった。

「何言ってんだ、ウスラトンカチが。てめぇじゃ役不足ってことだろ?」

それに対し、サスケが挑発したような言葉を発する。

「うるせぇ!てめぇがいたって、俺が注目度NO.1に決まってるってばよ!」
「はぁ?どうだかな、ビビリ君。」
「サスケェ!表に出ろこの野郎!今日こそ俺の方が強いって見せてやらぁ!」
「上等だ。その生意気な口、二度ときけねぇようにしてやるぜ。」

喧々囂々、まさに一触即発の言い合いをしている二人の間を割って、今の今までただ見守っていた
シカマルが一言呟いた。

「ようするに、二人とも行くわけだそうだ。」





「あーあー。しくじったってばよ。」

帰り道、ナルトは歩きながら呟く。
結局、サスケとの決着はつかず仕舞いの上、なんだかんだてキバの言う飲み会にセット参加という
ことになってしまった。
あの後、キバはシカマルの声に歓喜し、俺の面目は保たれた、恩にきる、と二人に言った。
そうまですると、断れなかった二人の事情だ。

「お前さ、本当に行くの?」

さっきから黙ったまま、隣を歩くサスケに声をかける。

「お前こそ。」

サスケもまた、ナルトに対し、確認した。

「・・・・・・・」

二人の間に、沈黙が流れた。



**



それを破ったのは、ナルトが先だった。

「い、いいんじゃねぇの?お前ってばさ、モテるしさ、その気になったらいくらでも可愛い子、
 彼女に出来てさ、そのままけっこーんとかあるんじゃね・・」
「興味ない。」

まるでくだらないことだと、一掃する。

「お前の方こそ、どうなんだよ。」

今度はナルトに聞く。

「お、おれ?俺ってばお前みたいにそんなモテないからさ〜」

茶化すように、ごまかしてるなと思った。
昔のように、ドベでウスラトンカチだったならいざ知らず、今のナルトは里の英雄だ。暁を倒し、
抜け忍の自分を救い、ナルトの言う通りにこのまま行けば確実に火影になるだろう。それを自分は知っている。
だからこそ、ナルトのモテないというのはごまかしということがわかる。

「・・・あのさ。」

ふと、ナルトが立ち止まった。
それに気づき、数歩進んだところで自分も止まる。
こっちを確認して、ナルトは口を開いた。

「サスケってばさ、好きな奴とか・・いるの?」

振り向いてナルトの表情を見ようとするが、丁度街灯の光の影に当たる部分で読みとることは出来ない。
おまけに顔を下に向け、うつむいているようだ。

「・・・・お前はどうなんだよ。」
「今聞いてるのは、俺。」

はぐらかしたくて、相手の方に話をすり替えるが、ナルトはいつになく真剣だ。

「・・・・・・言ってどうする。」
「え?お前いるの!?」

ナルトが急に顔を上げる。なんだかいたたまれなくてこっちは眼をそらした。
いるのは、事実だ。認めたくないが、きっとあれを恋と呼ぶなら、自分には相手がいる。
でもそれを言ってどうするのか。

「・・・・・いたらどうなんだよ。」

意を決してゆっくりとナルトに近づく。ナルトの表情が読みとれる位置まで移動する。
読みとった表情は、とても暗い。

「・・・・そっか。いるんだ。」

なんで、こいつはそんな顔するんだ?



**



「いたらどうなんだよ。」

まさか、そう言葉が返ってくるとは思わなかった。
だから、それが返ってきたときは本当に驚いた。
驚いて、どうすればいいかわからなかった。
素直に喜ぶことなんて、出来ない。
だって、自分は。
でも、喜んでやらなくちゃならない、だって自分はサスケの親友だから。
この関係を壊したくなくて、だからこそ笑うべきだ。
喜んでやるべきだ、なんなら協力だって惜しまなくちゃならない。

「・・・そっか。いるんだ。」

喜んで言うことも、笑ってやることも出来なくて、そして絞り出すように、事実だけを確認した。
近づいてきたサスケに、顔を上げることも出来ない。
自分のふがいなさに、ただ、ただ情けない。

「なんて顔してるんだよ。」

目の前のサスケに、そう言われるとなんだか見透かされている、そんな不安に落ち入る。
もしかしたら、自分の気持ちはサスケに知られているんではないかと、そんな不安。

「あのさ、あのさ・・・」

それをかき消すように、言葉を発するのが自分を守るための精一杯だった。



**



「あのさ、あのさ・・・」

なんともいいがたい、寂しい顔をしたナルトが下を向いたまま呟く。
なんで、こんな顔をこいつがするんだろう?
自分が、好きな人間がいる。
ただ、それだけのことで、なんで寂しい顔をするんだ?
途端に、ふと心が期待してしまう。
でも、違う。期待しては駄目なんだ。

「サスケがさ・・好きな人と一緒になってもさ・・結婚してもさ・・」

なぜに結婚という単語が出てくるかはわからなかった。
お前、何言ってるんだ、と一蹴したかった。
でも、今こいつの言葉を聞かなきゃ、前には進めない。漠然とした思いがあった。

「俺の、隣にいてくれってばよ。」
「・・・・・・」

何も言えなかった。何を言ったらいいのかわからなかった。ただ、ナルトの言葉を聞いていた。

「一番の・・・親友でいいからさ・・いさせてくれってばよ。」

親友、そんなものに自分はなれるのだろうか。
本当に欲しているものは、違うのに。
本当は、友達じゃなくて、一番になりたいのに。
こんなにも望んでいるのに。





「・・・・・・」

サスケは黙っていた。
親友と言う言葉に戸惑っているのだろうか?
でも、これを恋にできないなら、今のままでいい。
ただ、隣にいたい。
それだけが願いであり、ひとつの希望だった。
思わず、近くにいたサスケを引き寄せる。
これで終わりにしよう。
きっと笑って、なんだそれって言ってくれる。
だから、この恋心をおしまいにしよう。

「俺・・・サスケのこと好きだっだ。」

抱きしめて、その肩に顔を埋める。
ひとつの言葉にしたら、こんなにも簡単。
今日で、この恋は終わりを告げ、明日からはまたいつもの関係に戻るから。





引き寄せられたのは突然だった。
半ば、抱きしめられるような格好になったが、それを振り払おうとは思わなかった。
ただ、隠していたこの恋心が、形となって現れるならそっとその背中を抱きしめることだった。

「好きだった・・ってなんだよ。」

ごくごく疑問になった言葉を呟いてみる。
その言葉にナルトは、驚いて顔を上げた。

「じゃあ、今は・・違うのか?」

もしかしたら、という希望が自分を後押しする。

「俺は・・・今でもお前が好きだ・・」

自分の感情を吐露することが、こんなにも簡単だなんて知らなかった。



***



そのまま、二人の影が重なったままだった。
長い時間、いや実際は短かったかもしれない。
でも、ずっとこうしていたかった。
それよりも、もっと距離を縮めたかった。
そうしてお互いの温もりを感じながらも、先に動いたのはナルトだった。

「俺も、サスケが好きだ。」

サスケの眼を見つめて、笑う。
そして、そのまま唇に己の唇を重ねた。
触れるだけのキスは、どこからか熱をもって、もっとともっと、近づきたくなる。
今度はサスケの方から、唇に触れてやる。
そのキスは軽かったけど、熱を帯びた二人によって濃厚なものへと変わっていく。
時折それは、くちゅと水滴をならし、更に深めていく。
互いを抱きしめあう腕が、更に力を帯びていく。

「サスケ・・・」

名残惜しそうに唇がやがて離れて、お互いの顔を見合わせる。

「そんな恥ずかしい顔してるんじゃねぇよ。」
「サスケだって、顔真っ赤だってば。」

お互いに笑って、幸せだった。
今、言えることはただ幸せということ。
色に例えるなら、薔薇色。
例え今が暗闇でも、間違いなく二人だけは。





「俺ってばさ・・ずっと好きだったんだ。」

帰り道、二人でまた歩いている。
赤くなっていた顔もすっかり引けた。
さっきと違うのは、その手が繋がれていること。

「だから、その”だった”ってなんだよ。」
「いやいや、今ももちろん好きなんだけどさ・・」

うーん、何て言ったら伝わるか、そんなことをナルトは考える。

「いや、違うな、これは。」

好きということに、違うといってるのかとサスケに緊張がはしる。でも繋いだ手のぬくもりは確かだ。
そのまま、ナルトの言葉を待つ。

「あ・・・愛してるっていうのか・・な。」

恥ずかしそうに、そう言ってまた赤くなる。
その言葉にサスケは何も返せず、同様に赤くなる。

「ちょ!なんか言えってばよ。」

ナルトが黙ったサスケに反論をする。
繋いでいる手をぎゅっと握った。

「・・・・恥ずかしい奴・・」
「そういうことを言うなってば!」

あっさりと一蹴されたが、ナルトは笑った。
だって、そう言いながらもサスケは握った手を更に強く握り返してくれたから。





「明日・・キバに断らなくちゃだな。」

そう、サスケが呟いた。
互いに好意をもたれていても、もう他の奴なんか見えない。

「俺ってばサスケとラブラブですって言おうってば〜」
「やめろ!恥ずかしい。」

サスケの照れてる顔も可愛くて、ついついナルトは嫌がる恥ずかしいことを言ってやる。
そんな風にわーわー言っているのはわかっているから。
なんだかんだ言っても、サスケが自分を好きなことを。
それに気がついて、また幸せそうに笑うと、サスケもちょっとはにかんだように笑う。
繋いだ手は、そのままで。

幸せだった。




その幸せが未来永劫続くことに、
何にも不安なんてない。
すっと隣にいられることを、互いに信じて。

今、長く苦しかった恋が終わり、新しく始まる。



『アラクレ』の ゆず壱様 より、お誕生日のお祝いに頂きました♪

あばばばばっばばっばばb………(//△//) あまりの衝撃に、うまく言葉が出てきませんッ!!!
きゃーーー!!! なんて...なんて... 甘く素敵なSSなんでしょうか?!!!
きゅぅーーんvvvとなる リリックな2人に、私の脳みそは沸騰寸前です…!
大好きな “甘く切ないお話” に、初めて拝読した時は PC前で悶絶してしまいました。←

最後の締めの一文が、もうもう 本当に ス・テ・キ です!!! 
紆余曲折あった2の、幸せにつながってくエピローグ。 私が憧れとする 理想のNSですよーー!
ゆず壱さんッ!本当にありがとうございました!!! これからもどうぞ宜しくお願いしますネ^^